ビジョン、ミッション、バリューを新たに設定したり、見直す企業が増えている。SimmeLでも、ビジョン、ミッション、バリューの策定支援のプロジェクトが増えてきている。わたしたちの顧客の場合、上場やリーダーの交代、経営企画室の新設などのタイミングか、業績低迷を打開するための戦略見直しの一環で、こういったプロジェクトが発生している。
ビジョン、ミッション、バリュー策定プロジェクトにおいて、わたしたちが一番最初に行うのがキーワードの定義だ。ビジョン、ミッション、バリューといったキーワードが何を示しているのかを定義しなければ、概念の整理はできない。加えて経営理念や社是、社訓、WAY、CREDOといった意味合いの近しい言葉も混ざってくると、今何を議論しているのかも良く分からなくなってくる。当然のことながら、曖昧な定義付けでセットされたビジョン、ミッション、バリューは社員に共感、浸透をさせることができない。
ビジョン、ミッション、バリューとは何か。諸先輩方の書籍を読み漁って調べたところ、それらが指し示す内容は概ね共通しているものの、詳細には多様な解釈があり、どれが絶対に正解だということはなさそうだ。重要なのは、フレームワークなどを用い、キーワードが指し示す内容や役割をMECEに整理することだ。それさえ行われていれば、組織ごとに独自解釈が付加されていても、呼称が何であっても問題はないと考えている(もちろん誤解のない範囲で)。
SimmeLでは、ビジョン、ミッション、バリューを次のように整理している。
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縦軸に「意思」と「義務」、横軸に「社会」と「組織」を置いている。顧客に説明しやすいよう、縦軸に「未来」と「現在」も置いている。また大抵のプロジェクトの場合、策定と浸透がセットで行われるため、概念的なバリューを体現するための行動規範も記載をしている※1。このようにマトリックスを用いると整理が付けやすい。整理し、策定した後は、それらをそのまま呼称しても良いし、総称して経営理念と呼んでも良い。わたしたちの解釈では、経営理念は「組織の存在意義や使命を普遍的な形で表した基本的価値観」であり、ビジョン、ミッション、バリューから構成されるもの、としている。
アウトプットされたメッセージは、周知・浸透を行わなければ、ただの言葉でしかない。経営者や経営企画室担当がある日突然新しい経営理念を打ち出して社員がシラけるのはよくある話だ。周知・浸透を行っても、そのプロセスの作り方に失敗すると同じ結果を招く。ビジョン、ミッション、バリューの策定が言葉遊びになることなく、社員のマインドや行動を本質から変革する結果を導くには、策定の作法に則り、正しく設計する必要がある。また、策定後の周知・浸透を恒久的な取り組みとし、定期的な浸透チェックが必要だ。
※1 「行動規範」にはshould(べきである、望ましい)とmust(絶対にしなければならない)の2つの性格があると解釈されることもあるが、SimmeLでは、行動規範の遵守は「例外をつくらないこと」でその精度が高まると考えているため、行動規範はmustのみで構成されるべきと考えている。したがって、「今この瞬間も守らなければならない義務」という意味で行動規範を現在に置いている。一方、VALUEは、「現在は実現できていないかもしれないが、ビジョンとミッションの実現を目指すには、体現すべき(should)価値観」という意味で、体現までの時間軸があると考えている。
沼田利和